「伝統」という言葉は,明治中ごろに定着した言葉で,英語(traditional),フランス語(traditionnel)の翻訳語といわれています。
地域における伝統は,それぞれの地域において,地域の人々の働きによって,地域の人々のくらしを支え,くらしを豊かにしようという願いから生まれた連帯感,共通の願いなどから生み出されたものです。
それは,それぞれの土地での年中行事・子どもの遊び,慣習,民話などとして伝承され,あるいはその地ならではの民芸品として,いまに受け継がれてきました。
国立民族学博物館 大阪府吹田市千里万博公園10-1
江戸時代に各藩が産業振興を目的として力を入れたこともあって,日本各地で,美術品から日用生活品まで様々な工芸品が作られています。民芸運動の父と呼ばれる柳宗悦(やなぎ むねよし)氏は,こうした工芸品が生まれた要因は,自然と歴史であると語っています。そして,これらが備わった物には,「固有の美しさを認め,伝統の価値を見直し,それらを健全なものに育てることこそ,日本人に課せられた重い使命」だとし,無名の職人の技術と作品を残す民衆的工芸,民間の工芸の普及に取り組みました。
県別伝統工芸品・民芸品一覧表
日本民藝館 東京都目黒区駒場4-3-33
焼物,織物,和紙,硯,竹・木工芸といった伝統工芸品は,地域と文化に深くかかわっています。こうした品々は,人々の暮らしと密接にかかわり,地域において人々との共感と長い伝統に受け継がれ継承されてきました。すなわち,地域の自然や日常の暮らしと一体となり継承されてきました。
自然の育む風土の中で,地元の素材,原材料,資本,労働力を使い,その地域独自の気候や気象条件,水や土の性質など自然条件を生かした生産が行われてきました。地域とのかかわりで伝統工芸を見ると,次の点がその特性としてあげられます。
地域の日常の暮らしぶり地域性が見られます。生活や子どもの遊び,お祭り,伝統行事,冠婚葬祭これらの日常生活のなかで,地域の人々によって生産され,消費されてきたもの,これが伝統工芸品であり,地域の人々によって醸成されてきた風土(地域文化)の中で,日常生活に使用され,その価値が認められ,今日まで維持,継承されてきました。
伝統工芸品が,それぞれの土地で発展してきた理由は,次の点にあります。
・生活の必需品だった
漆器や陶器など食器は,生活に必要なので全国的に盛んでした。
・いい原材料を入手材料しやすい
昔は,よそから原材料を取り寄せるというのは難しかったことから,地元が原材料の産地ということが,条件でもありました。
・優秀な技術者がいた
静岡の伝統工芸は,浅間神社の造営のため全国から腕のいい職人が集まってきて住み着き,発展しました。
・経済や交通,文化の中心地
京都は,長く日本文化の中心であり,着物や扇子,茶道具が盛んでした。また,100万石の加賀(石川県)は,藩として加賀友禅,金沢箔などの工芸品を育てました。
・地域の自然特性を生かす
自然そのものには地域性があり,地域によって自然条件は異なります。こうした地域の持つ自然特性を生かしてその地域地域の生活や文化に根ざしたものづくりが行われ,今日,伝統工芸品として継承されました。
参考:「地域活性化のための地場産業研究」 井上秀次郎著 唯学書房
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