−−士魂商才−−


 いま,企業モラルの低下が懸念され,CSR(企業の社会的責任)と,企業倫理が改めて問われている。企業の使命は,事業の遂行を通して公利公益を図り,社会に貢献することにあるといわれている。企業が社会の一員であり,その中で存在し事業を行っていく以上これは当然のことといえます。自社の利益ばかりを優先させて経営すれば,社会の糾弾を受け行き詰まる。といって,自社の利益を全く無視した事業の展開は,現実的ではない。
  「士魂商才」という言葉がある。原(もと)の言葉は「和魂洋才」という言葉で,「武士の精神と商人の知恵」という意味の造語だという。百貨店『三越』の創業者『日比翁助』は士族の出身であり,「武士の魂をもって世に還元する商店」をめざした。
  日比が拠り所としたのは「“利”より”義”を重んずる武士の魂」で「才知ある商売」を行う「士魂商才」の思想。日比はまず,商業倫理が乱れた業界に,「義」という武士的倫理観を持ち込み,客のための商売,という商道徳の再構築をはかる。さらに西洋の一流の百貨を手本に,呉服店をデパートに転換。そこで赤字を承知で博覧会や美術展などの文化事業を積極的に開催した。日比はこうして国家・社会に貢献するという,「公」の精神を体現しようとしていたのだ。この日比の方針は,守旧派の抵抗や批判を受けながらも,日露戦争後の産業発展に伴い急増した大都市の中・上流層のニーズと合致し,改革開始から十年後の「近代的デパートの開店」により結実する。