1 借金列島で浮上したコンパクトシティー構想
戦後の日本は,一貫して国主導で地方復興に取り組んできた。この政策は,一時期,全国各地の中心商店街づくりという成果を上げた。半面,全国各地の商店街に『銀座』があるといった画一的なまちづくりを招き,加えて,鉄道から自動車へのシフト,そして急速に進んだ車社会への対応を欠いたことから,中心市街地のシャッター現象といわれる中心市街地の疲弊化,わけても駅前商店街の衰退を招く主因となった。
人口が減少に転じ高齢化社会が到来する中で,街づくりのあり方も転換を迫られている。20年後の地方をめぐっては極端な少子高齢化も予想されている。国立社会保障・人口問題研究所によると,2030年に65歳以上の高齢者の割合が4割を超える自治体は山間部などを中心に全体の37%。5割を超え,自治や冠婚葬祭など共同体の維持に困難が出る「限界自治体」は5.8%にのぼる。国土交通省によれば,10年以内に消滅する集落は423,将来的には2643の集落がなくなる可能性があるという。
また,夕張市が財政再建団体申請を持ち出すまでもなく,今や日本は県も市もの借金列島。地方自治体の借金絵額は250兆円に上る。この破綻寸前の地方財政は,この先さらに厳しくなる。地方交付税は削減され,地価の下落で固定資産税アップは期待できない。住民税も人口減と団塊世代の定年で減少する。一方で高齢社会を支えるコストは増える。
道路や水道の社会資本を整備して新たな開発をするより街なかの既存インフラの活用を図るコンパクトシティー構想は,この切羽詰まった財政事情を背景にある。都市機能を極力中心部に集めれば,インフラ維持費やごみ収集などの行政コストも低減できる。
参考用語:地域の知の拠点再生プログラム
地方都市の中心市街地,特に商店街の衰退が止まらない。コミュニティの危機が,中心市街地の衰退によってもたらされているとの指摘があるが,その因果関係が事実であるのかどうかは定かでない。が, こうした流れに歯止めをかけ,都市再生を目指す動きが,「コンパクトシティ」の発想である。政策面では「街づくり3法」の見直しとして,具体化している。
「がんばる商店街77選」:経済産業省 2006年5月発表
全国の商店街における取り組みやアイデア事例77事例をとりまとめている。
日本商工会議所「づくり情報ナビゲーター」
まちなか問題『中心市街地活性化ブログ』
中心市街地,商店街など,まちなか問題を考えるブログ
2 コンパクトシティーとは
「コンパクトシティ」という言葉は,ダンツィク(Dantzig)とサアティ(Saaty)という二人の建築都市計画の専門家による著書『コンパクトシティ』(1973〜74年)で初めて用いられた。彼らは最も効率を良くする都市の姿を「コンパクトシティ」と考えた。
時代を経て,コンパクトシティの概念も変化した。今日のコンパクトシティの基本的な概念は,地域コミュニティーを重視し,中心市街地を中心に,既存の都市機能を効率よく活用した都市・まちづくりといった政策を指すものである。物理的には,時速4km,すなわち人間が1時間で移動できる範囲を基準にしたまちづくりを意味する。
広義には,商業にとどまらず交通,住宅,文化,教育,医療,福祉,環境,景観,防犯など,都市・街づくりにかかわる広範な事項が含まれる。すなわち,「商」のみならず「住」,「職」・「学」・「遊」等の機能を都市の中心部にコンパクトに集積することで,中心市街地活性化等相乗効果を生もうとするものである。この考え方は,都市の拡大により可住地を増やし続け,人口を増大させる方策を取って来た従来の都市計画に対して見直しを迫る考え方である。
具体的には,ワンストップショッピングが可能な大規模な商業施設や市役所,銀行,中央郵便局,大規模公演,中央図書館,大規模病院,劇場,大規模ホールが中心市街地に立地しする。そして,そこにはバスや鉄道などの公共機関が集中し,事が中心市街地一カ所で済んでしまうまち(街・町・市)である。
日本では,1995年の阪神大震災からの復興に向けて,大都市が地域力(地域社会としての力)を高めていくためには,「コンパクトシティ」を目指すべきという神戸市長の声明が,日本における「コンパクトシティ」の先駆けとなった。
高齢化時代の到来,そして人口減少という時代を迎え,中心市街地への大型商業施設の出店を規制する一方,中心市街地に都市インフラを集約して,市街地の活性化を図ろうとするのが,日本流コンパクトシティである。こうした考え方は,都市の拡大により可住地を増やし続け,人口を増大させる方策を取って来た従来の都市政策とは,正反対の考え方である。
コンパクトシティが注目される背景には,中心市街地の衰退,特に商店街の著しい地盤沈下にある。多くの地方都市で,かつて,賑わいと活気にあふれていた中心市街地の面影はない。車社会の進展,人口の郊外流出,大型商業施設の郊外への出店に加え,病院,学校といった公共施設の郊外拡散が,結果として中心市街地のにぎわいを奪い,商業の衰退を招いたとして,中心市街地再生に向けて議論が進み,「まちづくり3法の見直し」が具体化した。
人口が増え続けたこれまでは,外へ外へと拡大。だが,時代は一変。今後は人が年間70万〜80万人の勢いで減っていく。そこでは街づくりのベクトルを内向きへ転換しなければ,現在の行政サービスは到底維持できない。まして高齢者が増加する中では,誰もが歩いて生活できる街が必要。これが「コンパクトな街づくり」を,国が都市計画の基本に据えた理由である。
3 コンパクトシティの事例
日本流コンパクトシティの実践例として全国的に注目を浴びているのが商業,事業所,住宅,学校,病院などの機能を都市の中心部にコンパクトに集中させることで都市の活力保持を図る青森市。全国に先駆けてコンパクトシティー化を進めたている。きっかけは争かき対策。豪雪の青森では延長265キロbの市道の除排雪を毎日深夜作業でやっており,費用は年間20〜30億円。「今後人口が減り高齢者世帯も増える中で,快適な暮らしを維持するには,みんなで寄り合いかたまって助け合っていく.ような街づくりが必要。それがコンパクトシティーの考え方を生んだ」と,青森市長は言う。
市民生活の質の重視という視点にから,住民,企業,商店街などが主体となり,行政と協働して地域の個性を生かした安全・安心で便利なまちづくり構想に取り組む神戸市,昭和の町を掲げて再生を目指す大分県豊後高田市などである。
地域の交通機関や関連産業を見直すことにより,中心市街地などの街づくりを再構築する動きも見られる。高齢者などが住みやすいインフラを整備し,町の活性化を促すことを狙いに,富山市がコンパクトシティー実現に向け路面電車の延伸を検討。宇都宮市では官民で自動車や航空宇宙,ロボットなど「移動性を高める産業(モビリティー産業)」振興に取り組んでいる。
山口県の柳井市は,「ふるさとの道路整備事業」と題して,道路の用地は市民から無償提供を受け,アスファルトなどの原材料や機材借り上げ費用は市が負担し,労力は住民が提供するというしくみで,市道整備に取り組んでいる。
産業構造審議会流通部会・中小企業政策審議会経営支援分科会商業部会合同会議中間取りまとめ(案)
「〜コンパクトでにぎわいあふれるまちづくりを目指して〜」についての意見募集を開始。
「今後の地域の環境まちづくりのあり方」が公表されました(経済産業省)
まちづくり条例研究センター:まちづくり条例の普及のため調査・研究,情報提供
「2003年商店街実態調査」:(経済産業省/中小企業庁経営支援部商業課)
農村整備−−農地・水・環境保全向上対策
青森市 コンパクトで住み良い都市(まち)づくりの実現に向けての基本方針
4 まちづくり三法の見直し
まちづくり三法の見直しを進める産業構造審議会(経済産業相の諮問機関)と社会資本整備審議会(国土交通相の諮問機関)は2006年の通常国会への改正案提出をめざして議論を進めている。そのポイントは,右肩上がりで人口が増え続けることを想定したまちづくりから,人口減少社会の到来に合わせたまちづくりへの政策転換である。
計画的な土地利用規制と中心市街地の活性化支援の両面から,都市機能の拡散を抑えた「コンパクトなまちづくり」を目指す。
経済産業省の商業統計によれば,1000平方メートル以上の大規模小売店数は2007(平成19)年で全国に約1万7000店。約20年前の1988(昭和63)年の約8000店から二倍以上増えている。
例えば「ジャスコ」などを運営するイオングループの総合スーパーや食品スーパーの店舗数は2000(平成2)年の613店から現在は2032店と5倍増である。同社では,「タヌキやキツネのでるところに出店しろ」を合言葉に,地方都市の郊外出店に傾注した。00年の大店法廃止に代わり施行の大店立地法により,大型店の出店が原則自由も追い風となり,全国で1万uを超す大型店の郊外出店が相次いだ。
それが,06年,まちづくり三法の改正により,大型店の郊外立地を制限する方向が打ち出された。規制緩和を国が再び堰き止めた背景は,地方財政の悪化と少子高齢化,人口減社会の到来。そしてシャッター商店街に象徴される深刻さを増す中心市街地の空洞化現象である。
06年8月から段階的に施行されている改正まちづくり三法のポイントは,都市機能を中心部に集約したコンパクトな街づくりを目指すこと。そのため床面積の合計が一万平方bを超える大型集客施設の郊外立地を規制するということである。
今後,延べ床面積が1万平方メートルを超える店舗については出店地域が制限されることから,自由な出店可能地域が市街化区域全体の約30%から8%弱に激減する。
市街化活性化施策−国土交通省−「暮らし・にぎわい再生事業」
国土交通省は2006年度から,「暮らし・にぎわい再生事業」として,病院や公共施設,公的機能を併せ持つ住宅などの立地を促す助成,空きビルを再利用する際の改修費用を補助するといった,新事業を立ち上げる。人口減少時代に対応し,中心市街地の都市機能の集積を加速させることを,狙いとして,06年度政府予算案に90億円を新規計上している。
都市再生
都市の魅力と国際競争力を高めるべく,内閣に都市再生本部(本部長:内閣総理大臣)を設置し,政府をあげて諸施策を展開している。
都市再生本部(本部長:内閣総理大臣)において決定された「全国都市再生のための緊急措置〜稚内から石垣まで〜」(平成14年4月8日)の一環として,平成19年度内に全国各地で展開される「先導的な都市再生活動」を,国が「全国都市再生モデル調査」として支援するため,対象となる都市再生活動の提案を募集している。
都市再生本部:内閣官房 都市再生本部事務局
大店法廃止
「消費者のために」とした大店法の廃止後,大型店同士の競争が激化した。このあおりを受けて,商業統計によると04年6月までの2年間に全国で大型店の1割にあたる1561店が撤退した。
自分たちの街を守ろうとする動きも出ている。福島県は2005年10月,売り場面積6000平方b以上の大型店出店を事実上規制する「商業まちづくり推進条例」を全国で初めて制定した。
大型店の出店規制だけでは,本質的な解決策とはならない
高齢化社会に向けたコンパクトシティの構想は,時代対応策であるが,大型店への規制だけが先行している様相が強い。住宅や病院,学校などの機能を中心市街地にどう組み込むかといった,検討を同時に行うべきである。
観光軸にまちづくり 国交省
国民一人あたりの宿泊観光旅行回数・宿泊数は1991年の1.73回,3.06泊をピークに下降傾向に入り,04年には1.8回,1.92泊と落ち込んでいる。今後の人口減少もあって,このままでは宿泊観光旅行の減少傾向は止まらないとみられている。そこで,国土交通省は2006年度から観光を軸にした地域のまちづくり支援に乗り出す。
全国10地域に助言の組織・観光まちづくりアドバイザリー会議を設置し,モデル地域を選定し運輸局・地方整備局が事務局となり,地域観光マーケティング促進セミナーやコンサルティング事業などに取り組む。地域の観光マーケティングを支援し,地域の活性化を図る。
現在,2010年には外国人観光客を1千万人に増やすことを目標とするビジット・ジャパン・キャンペーンを実施している。
| どこでもできる、地域資源と市民のアイデアによるまちづくり。市民ライフスタイルを尊重し、地域固有資源を市民自らが発見・活用する地域再生の事例と方策を詳解。
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「持続可能な都市」をいかに次世代へ引き継ぐか?「まちづくり三法」改正で注目される人口減少・高齢社会に適応した“歩いて暮らせるコンパクトなまちづくり”の考え方・方策を提示。
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地方都市の中心市街地、とりわけ商店街が疲弊している。まちづくりへの有力な取り組み手法のひとつである「コンパクトシティ」の基本的な考え方を解説し、コンパクトシティ形成に向けた青森市の取り組みを紹介する。
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市民と自治体行政がともに知恵を出し合い、魅力を発信している地域がある。地域資源の活用、有機農業、林業、商店街の活性化、・食育、都市農業、公共交通…暮らしと仕事を見直し、人びとの声に、未来を切り拓くヒントを探る。 |
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| コンパクトシティの本一覧 農業の本一覧 | ||||
◆書評 日本版スローシティ
本書は,商業に軸足を置いて地方都市における町づくりを論じている。
まず,まえがきで「まちづくり」に関する本はたくさんある。そのような本に書いてあることを忠実に実践して,まち(特に地方都市)は活性化しているだろうか,と,いきなり疑問を呈している。そして「ものごとが専門家が言ったようにならないことを発見して驚いたことが何度目にしたことだろう。結局のところ,都市問題で最大の疑問は『本当の専門家は誰のことだろうか』とのロバータ・B・グラッツの言葉を借りて,問題提起している。
事は専門家の言う通りにはなっていないとの指摘は経営コンサルタントを業とし,いっぱしの専門家を気取ってきた私にとっては心臓に突き刺さる言葉である。
そして,既存の「まちづくり成功事例」や「成功(活性化)手法」鵜呑みにしての,その模倣は,失敗を招くと警報を発している。その原因として,目に見える部分と,論理で説明可能な部分だけを,てっとり早く「模倣」しているだけで,その本質を見逃している点を挙げている。
そして,まちづくりの成功の根底には,地域に根づいた文化・風土とその地域に集まる市民のライフスタイルを尊重すること。言葉を換えると,「重要なのは目に見える器より,不可視な精神こそ,現代日本の街づくりに最も求められる」と,論じている
こうした前提の下で,本書の構成は,前半が「まちづくり理論書」,後半第四章以降が「まちづくり事例集」であり,その全てを「スローシティ」という視点から解説している。
なお,本書では,「可視・論理・効率」から造られる均質化した都市を「ファストシティ(Fast City)」と定義している。ファストシティは,学者や行政が大資本と連携して考案,大資本が経済的利益を享受してきた。しかし,それは地域固有の風土・人間性を衰退・喪失させ,その弊害は小さな都市ほど大きいとしている。
ファストシティに対しての「スローシティ」の概念は,地域固有の文化・風土と市民のライフスタイルを尊重する新しい街づくりにある,としている。そして日本の街づくり専門家は地域市民のライフスタイル・文化をどれだけ知っていて,知ろうと努めているだろうか,との苦言を呈している。そして日本の多くの地方都市が町中の賑わいを失いつつある。それへの対応法は,「可視・論理・効率」から造られる箱モノや制度の模倣だけではなく,スローフード運動を原点とする「スローシティ」精神にある,としている。
また,2005年4月施行の「地域再生法」の精神は,スローシティの精神と非常に似ているとし,その具体例として内閣府が作成する地域再生法関連資料に,頻繁に使われる文言として,「自立・自主・自考」を挙げている。そして,地方都市におけるスローシティの実現に向けて次の4箇目の指針を提示している。
@まちづくりの主役は市民,開放型コミュニティを創ろう
Aコミュニティが運営する西欧型地域スポーツクラブを創ろう
B地域固有の文化・物語を発掘・創出しよう
C公共空間を市民ライフスタイル実現の場にしよう
「まちづくり」に関する本書の主張には,その道を生業とする専門家もどきの末席にあるものとして,いささかの異論・反論はある。 が,読者に媚びることない著者の姿勢には,敬意を表する。